ソレイユニュース 2019年6月号
2019年4月12日に行われた東京大学入学式での、上野千鶴子東大名誉教授の祝辞が話題になっています。
上野氏は、元文学部教授で社会学者、祝辞の中でも述べている通り、女性学という分野を開拓し、ジェンダーフリーや女性に関わる社会的な事象について研究してきました。
ジェンダーフリーを標榜するフェミニズム社会学者というと、女性の権利を声高らかに叫ぶ怖い人というイメージが先行し、その著書を手に取ることはありませんでした。
女性が軽視されてきた歴史は書物の中で目にすることはあっても、実生活の中で体験することがなかったので、読む必要性を感じなかったのだと思います。
私が性差別を受けずに過ごせたのは、上野教授のような戦うフェミニストたちのお蔭だったかもしれません。女権の強い群馬という土地に育ったせいでもあるでしょう。父親と母親、両方の役割を精力的に担ってきた母の影響も大きいでしょう。選択した職業も女性を差別しない分野だったのも一因といえます。私が育った昭和40年から50年代は、戦前の教育に反対する教師たちが、“平等”を盛んに唱えていて、それら全てがジェンダーフリー運動に無関心でいられた原因だったのは確かです。上野名誉教授は、女子と浪人生とを差別した東京医大入試や、偏差値の性分布、文科省の学校教育調査(進学率)を例に出し、環境によって頑張っても報われない人(上野氏によると“女性”の意)が存在することを指摘しています。
能力と環境に恵まれ東大に合格した新入生に対し、その能力を、自分たちが勝ち抜くためにだけ使わないでほしい、恵まれない環境にいる人たちを貶めるためでなく、そういう人々を助けるために使ってほしい、と訴えるフェミニズム研究者。弱者(“女性”が弱者とは私は思わないけれど)の立場に立ち戦ってきた人の、心からの声です。
その他にも、大学で学ぶ価値、それは、既にある知を身につけることではなく、これまで誰も見たこことがない知を産み出すための知を身につけること(メタ知識というらしい)、そのメタ知識を学生に身に付けてもらうことが大学の使命であると発言。
東大ブランドが全く通用しない世界のどんなところででも、例え難民になってでも生きていける知を身に付けてもらいたいと述べています。
目的意識を持って学び、他人に対する思いやりの心を持ち、自分の能力の限り逞しく生き抜いてゆけ、と語る研究者の魂の叫びは、じんじんと心に沁みました。
富山県出身の少し訛りのある語り口で語られたことで、余計に心の奥底に共鳴したのかもしれません。
この祝辞はYouTubeで閲覧できます。
上を目指して頑張っている人たちに、是非見ていただきたい動画です。
*写真は、同年の東京藝大入学式。澤和樹学長が祝辞の中でヴァイオリンを演奏している様子。