ソレイユニュース2024年5月号
昨年は11月まで蚊が飛んでいる程の暖冬でしたが、3月の春寒を経て、4月上旬に入学式とジャストタイミングで咲き、ようやく春になりました。
ソレイユコンサートへ向けての準備、新入室の方の受付、新学期のレッスン時間割再編成などの春特有の仕事に追われる中、春の暖かさに誘われて講談を聴きに行ってきました。
文楽を国立劇場に観に行ったときに気づいたのですが、長年日本で暮らしているのに、日本の伝統芸能については未経験のものが多いのです。
文楽は関西発祥のため、大阪では国立文楽劇場で鑑賞できますが、関東で定期的に鑑賞できるのは、国立劇場小劇場のみ。観る場所や回数に制限があるためか、国立劇場での文楽は意外に人気があり、会員以外の人が席を確保するのはかなり困難です。文楽を鑑賞した後の率直な感想は、感動のひと言。日本人は表現することが不得手なんて誰が言ったの?と言いたくなる義太夫の豊かな語り口、声だけで表現されるその表情の多様さに圧倒されます。人形遣いも一見の価値があります。
声だけの伝統芸能といったら落語や講談。最近は落語ブームということもあり、地方でも落語を鑑賞できるようになりましたが、講談は落語に比べると現代においては人口に膾炙していない芸能です。
落語が長屋の熊さん八つぁん、横丁の旦那などの庶民の話が中心なのに対し、講談は歴史もの、武士の話が語られます。
当代一の講談師として飛ぶ鳥落とす勢いの六代目神田伯山がトリを務める寄席が浅草演芸ホールで開催されたので行ってきました。
伯山の独演会はチケットが取れないことで有名です。殆ど過去の遺物だった講談をこれ程人気芸能に変えた実力者の語りは、やはり普通ではなかった❗
まず声が良く、無理ない発声は広い浅草演芸ホールに鳴り響きます。声を聴いているだけで心地よい。他の芸人さんに比べて身体が大きいのが良いのでしょうか。声を出す芸術は、身体が大きい人の方が得なのはオペラに限ったことではなさそうです。
第一人者と呼ばれる人は、どの分野でも傑出しているもので、人を惹きつける技巧とエネルギー、そしてオーラ、どれをとっても群を抜いています。
子供もちらほらいる春休み中の観客相手に笑いを取る“まくら”から始まり、使用人の命を他人に委ね、試し切りを許可した主を赦す『無筆の出世』では、滂沱の涙(感動するとすぐ泣いてしまう)。
落語もそうですが、講談は教訓を含んでいる話が多く、押し引きの手法で感情が揺す振られます。
笑いと涙でストレスも解消し、終演後はスッキリ。
落語や講談を聴くと人を笑わせる勉強にもなりますし、話し方の参考になります。
音楽家も音楽だけでなく話す技術も必要なので、時々落語や講談に行くことをお薦めします。
東京には定席寄席が4つ、その他にもいくつか寄席がありますので、春風に誘われて是非鑑賞してみてください。